ミケ猫の小部屋

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大学の線形代数で扱う帰納法

帰納法は証明手法として極めて重要なものです。特に証明する途中、証明する目標となる命題と似たような形の子問題がでる時帰納法は定番化される。帰納法は特に自然数などの構造で役立つけど、線形代数の場合はそう簡単ではない。行列や線形変換や線形空間などは自明的な帰納的構造を持たないため、帰納法を適用しようとしてもなかなか難しいだろう。これから自分が見かけたいくつかの帰納法の考え方を紹介する。

掃出しを使った帰納法

こちらの帰納法は一番簡単で、やり方としてまず行と列の足し引きによって一行と一列の要素を一つ以外全部0にする。その後残りの部分に対して帰納法を適用。典型として任意の行列は標準形に移せることの証明に使われる。標準形はつまり1が対角線上にだけ並ぶ形です。行列 Aの一行目と一列目を掃き出すと以下の形になる。


\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & A_{m,n} \\
\end{pmatrix}

つまり (1,1)にのみ1が存在してそれ以外の一列目と一行目の要素は全部0になる。この時右下の A_{m,n}はサイズが Aより小さいがため帰納法の仮定を適用できる。この方法は主に正則変換の影響を受けない性質持つ命題の証明に使われる。

正値エルミートの場合

正値エルミート行列の場合、正値行列を Hとする。


H=
\begin{pmatrix}
A_{n-1} & b \\
 b^t & c \\
\end{pmatrix}

P=
\begin{pmatrix}
E_{n-1} & A_{n-1}^{-1}b \\
 0^t & 1 \\
\end{pmatrix}

この時 B=P^t A Pが以下の形になる。


B=\begin{pmatrix}
A_{n-1} & 0 \\
0^t & c-A_{n-1}^{-1}[b] \\
\end{pmatrix}

この変換は行列式に影響が出ない上掃き出すことができる。これを使って二次形式やアダマールの不等式などを証明することが楽です。

部分集合に関する帰納法

名前通りにベクトル集合の要素に対して帰納する。なおこの時集合のすべての要素を表せるベクトルの組は基底ではなく、極大線形独立系と呼ばれる。簡単で理解しやすい反面に行列や変換に対してあまり効かないので一回だけ見たことある。では次の命題を考えましょう。

集合Sがn個のベクトルからなる極大線形独立系を持つときn個より多いベクトルは必ず線形従属

集合Sに対して E_1 E_2の二つの極大線形独立系がある時。 E_1はn個のベクトルがある。 E_2m-1個のベクトルがある。 E_1にない E_2にあるベクトル vを考える。Sからvを取り除いてS'を得る。集合は線形空間の効率を満たさなくでもいいのでとても便利です。この時E_1はまたn個のベクトルを有する。でもE_2m-1個の線形独立なベクトルしかない。 S'に対して帰納法の仮定を適用すると n \geq m-1はすぐに分かる。イコールの場合に対して証明すれば大丈夫です。

T-不変部分空間に関する帰納法

ある線形変換Tに対して命題を証明する時にT-不変部分空間を使って線形空間帰納的に構築する。これは行列の形式にも出てくる。行列を対称区分けする時上三角行列のような行列は不変部分空間を持つ。実は任意の行列は上三角化出来るがため任意の線形変換Tは帰納的にできると言えるでしょう。

n次元線形空間の線形変換Tが冪零の時、T^n=O

Tは冪零であることから、ある基底の元で以下の形をする。


B=\begin{pmatrix}
0 & \cdots & c \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
0 & \cdots & 0\\
\end{pmatrix}

この行列は対角線以下が全部0で、自乗するたびに0が右上に蔓延るなのでせいぜいn回自乗したらゼロ行列になる。

実計量空間Vの実対称変換Tの固有空間の直和はVです

固有値 \beta_1と対応する固有空間 W_1を取り出す。 W_1^\perpはT不変で次元数が低いがため帰納法で分解できることがわかる。なおW_1と直交するため、直和である。